「丸善」創業150周年記念連続講演会(第8回)に参加しました。
(2019年11月22日・日比谷図書文化館)
今回の講師は、東工大 リベラルアーツ研究教育院 准教授 伊藤亜紗 氏
もともと昆虫の世界に惹かれ生物学を専攻したそうですが、現在の専門は「美学」。
美学の手法で、障害から身体について考える研究をされています。
今回は、身体感覚とコミュニケーションについて深く考えさせられる機会となりました。
コミュニケーションとは、人がそれぞれ異なる存在であることをよく理解したうえで、
その場で手探りで関係を「生成」していくこと、共鳴する感覚を探り当てていく行為なの
ですね。
日頃、ついつい相手に自分の思いを伝えることに集中しがちですが、これからは身体感覚の
アンテナを高く上げて、多様な相手との関係を一歩一歩作り上げていくコミュニケーションを
実践していきたいと思います。
以下、講演要旨です。
・美学とは、言葉にならない、曰くいいがたいものを考える学問で、自分と異なるものを、
感じることを通して深く理解する方法(生物学に似ている?)
・福祉ではなく、美学の視点から、障害を通して身体について考える研究を行っている。
障害へのアプローチは、身体を否定せずに身体を語る言説の精緻化が必要となる。
「私の輪郭はどこまでか?」
・人間の身体は、本来開放型であり、道具など自分ではないものと一体化する
能力を有している。 … 人は、生まれながらのサイボーグであるともいえる。
・健常者は、身体の輪郭が安定しているが、障碍者は、身体の輪郭が揺らぎやすい。
・特に、中途障害の人は、以前は無意識にできたことが意識しないと行えなくなり、
自分の身体が身体とは言えなくなる感覚と向き合いながら生きている。
「輪郭が揺らぎやすい身体(を持つ障碍者)と、どうやってコミュニケーションを
取ればよいか?」
・コミュニケーションには、4つの象限がある。
記 号 モ ノ
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伝 達 ①演説、読書 ②柵、横断歩道
生 成 ③おしゃべり ④手渡す、パス
・障碍者とのコミュニケーションは、つい一方的な「伝達」になりがちである。
時に、暴力的になったり、自分で直接世界を感受できなくなることがある。
(介助者を通した世界しか感じさせてもらえない。)
・障碍者とのコミュニケーションでは、「生成的な関係」を作ることが一番大切なこと。
一般論ではなく、その場で、手探りで一緒に課題を解決していける関係を築いていく。
… ”共鳴する感覚”、”自分の輪郭が拡張される感覚”を得ること。
「多様性」、「ダイバーシティー」という言葉の氾濫に、とても違和感を覚える。
分断状態の現状肯定になっていないか?
健常者の勝手な押し付け、伝達になっていないか?
・一般論ではなく、個別の状況、その場で探り見付けていくことが大切
・「してあげる」ではなく、「ともに行う」生成の概念を創出していく
・一人ひとりの中にある多様性を尊重する
… 人はいつでも障碍者であるわけではない。 Be your whole self.
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